僕と夜と本
夜になると思考が冴え渡るということは誰にでもあることなんじゃないかと思う。寝る直前、布団に入って、目を閉じた瞬間、ほんの数秒前までは眠気や疲れを感じていたはずなのに、急に頭の中に様々な考えが巡るのである。
僕の場合よく頭に浮かんでくるのは、自分が死ぬことについてだとか、世界(自分)がこれ以上悪くならないようにするためにはどうしたらいいのかだとか、昼間少し気にしても、すぐ忘れてしまうようなことなのだけれど、夜、ひとりでいるときに頭にそれらが浮かぶと、とんでもない不安感を覚えてしまう。僕はそれのせいで眠れなくなったり、精神的に不安定になってしまったり、体調を崩してしまったりする。
そういうことが一度あると大抵二日、三日とそれが続いていって、夜中に眠れない、朝に起きれない、そしてまた夜中に眠れない、といった負の連鎖が生まれていく。
前置きが少し長くなったが、そういうときは、本を読むといいですよ、という当たり前のような提案と、僕が個人的に好きな本を、みなさんに読んでほしい、という願望を記していこうと思う。
砂の女/安部公房
あらすじを簡単に説明すると、海外の砂丘に昆虫採集をしにやってきた男が、その砂丘の奇妙な集落にある女の家に閉じ込められ、その女と共同生活をしていくという話。
ちょっととにかく文章が巧みすぎる(拙い文章)。砂に囲まれた集落での生活(家が砂に埋まってしまうほど生活が『砂』に支配されている)という異常な状況なのに、容易に目の前に光景が浮かんでくる。それでも周りは「砂」だけなので、情報の多さに苦しむこともなく、ただひたすらに読みやすい。
ちょっと文章が上手すぎて、こんな上手い文章を書くな、やめろ、勘弁してくれ、と思ってしまう。
個人的に最初の「罰がなければ、逃げる楽しみもない」というポエムが好きで(ポエムと言うな)その一文を読むと「砂の女、おもしれ〜」となってしまう。
あと、終わりかたが絶妙に好き。読み終わるまではどんなラストになるのだろう?と思っているのに、終わってみれば、これ以上はないな、と納得してしまう終わりかた。ネタバレは避けるけど、とにかく良さみが深いので読んでみてください。有名どころに間違いはない。
ハーモニー/伊藤計劃
読め。
孤島の鬼/江戸川乱歩
僕はオタクなので乱歩をよく読むのだが、その中でも特に好きなのがこの「孤島の鬼」。
主人公の儚い系美青年蓑浦金之助が、恋人初代の死の真相に迫りつつ、イケメンゲイの諸戸道雄に言い寄られる話。
僕は乱歩の推理小説より、エログロナンセンスな小説が好きなのだが、この「孤島の鬼」はそういった、エログロナンセンスな部分も含みつつ、また推理小説としても面白い。また、いつもの乱歩っぽいおどろおどろしい怪奇小説の面もあり、冒険小説的な面もあり、最高の出来だと思う。あんまり核心に迫ることは言えないが、人死にのトリックがあまりにも「乱歩すぎる」。多分丸尾末広の少女椿が好きな人は気に入る作品だと思う。
一応、貼っておく。
死者の奢り/大江健三郎
灰色がかった水色っぽい話。(これを言って共感してもらえたことはないのだが、誰かひとりでも共感してくれる人が現れるまで僕はこれを言い続ける。)
死者たちは、濃褐色の液に浸って、腕を絡みあい、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、また半ば沈みかかっている。彼らは淡い褐色の柔軟な皮膚に包まれて、堅固な、馴じみにくい独立感を持ち、おのおの自分の内部に向って凝縮しながら、しかし執拗に躰をすりつけあっている。
最初の数行なのだが、文章が美しすぎる。これを読んでいるとき、完全に自分が「死者」 になっていることに気づく。ホルマリン(死者はホルマリン漬けにされている)の中をただよい、混じりあう、気だるさや、心地良さのようなものまで感じる。
昭和三十年代の作品であるにも関わらず、登場人物の心情に共感することができる(本当の意味でできているかはわからない)のはこの作品の強み、「普遍性」だと思う。大江健三郎の本は本当にどれも良いのでみなさんぜひ読んでみてください。
そんなに多くは、そして長くは紹介しなかったが、どれも本当にしっとりと面白く、夜に読むのにはうってつけの作品なのでこの記事を読んで興味を持った方はぜひ読んでほしいなと思う。
ちなみに、Amazonのリンクを大量に貼ったが、ここからいくら購入しても僕には1円も入らないので、安心して10000冊購入してほしい。
本について話したいことはまだまだあるので、また気が向いたら更新しようと思う。
みなさん良い夜を。